映画を観ている人に、開始から20~30分後に、
「どう面白い?」と聞くと、ほとんどの人が「まだわからない」と答えます。
面白いかどうかの判断は、映画を最後まで観なければ、判断ができないと言うのです。
本当にそうでしょうか?
見ている途中、経験している最中に感じる、「今、面白いかどうか?」はとても重要です。
しかし、エンディングを観るまで、面白いかどうかわからないのであれば、エンディングまでの時間は軽視し、エンディングを重視しすぎていることになります。
90分の映画なら、全体の三分の一は見終わっています。
これまでの30分の満足度や体験は、ほとんど無視されることになります。
本来は、全体を通して評価すべきなのですが、最後の印象だけで、全体の評価が決まり、それが記憶として残ります。
このように、映画を観ている最中に「今どう感じるか?」という、「経験する自己」と、観終わってどうだったか?という「記憶する自己」は別ものです。
「記憶する自己」は、「経験する自己」の満足度を無視して、最後の満足度だけで、全体を判断したような錯覚が起こります。
ピーク・エンドの法則
この錯覚には、「ピーク・エンドの法則」という名前が付いています。
ピーク・エンドの法則とは、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが発表したもので、「記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の満足度で、ほとんど決まる」というものです。
先の映画の例のように、特に物語や人生の出来事は、エンディングのみによって評価されます。
これはある人のエピソードです。
ある人は、CDで40分間に及ぶ交響曲を、うっとりと聴いていました。
ところが、CDに傷があったらしく、曲の最後の方で耳障りな大きな音がしました。
すると、「せっかく曲を楽しんでいたのに、ぶち壊しになった」と感想を言いました。
音楽を聴き始めて、39分間は、完璧な体験をしていたのに、ラストの数秒に不快な音を体験しただけで、経験全体の評価を下げたのです。
これは、39分に及ぶ音楽を楽しんでいた経験を無視した評価です。
このように何も意識せずに、普通に過ごしていたのでは、終わりの印象だけで出来事を評価します。
適切な評価をするために
「経験する自己」と「記憶する自己」は、別ものであることを知り、経験中の心の状態を意識するようにして、「経験する自己」を加味して出来事を評価するようにすれば、正確に評価ができるようになります。
ポイントは、経験する自己という概念を頭に入れ、意識的に「今の心の状態」を感じるようにすることです。
出来事を正確に評価することができれば、誤った記憶が形成されません。
何かが失敗に終わっても、経験中の状態を加味して全体を通せば、悪い出来事ではなかったと記憶できるでしょう。
結婚生活が破綻したら、最後の悪い印象だけが残り、結婚生活全体が悪かったと記憶しがちですが、経験中の心の状態に意識を向けていれば、楽しかったこともあり、全体としては悪くなかったと記憶するようになるかも知れません。
また、私たちは、記憶に基づいて価値判断を行うので、出来事を正確に評価することができれば、今後、適切な選択をすることができるようになります。
まとめ
出来事に対する記憶は、今後の判断基準になります。
「経験する自己」と「記憶する自己」という概念を知り、経験中の満足度に意識を向け、記憶に加味するようにすれば、正しく評価し、記憶に残すことができます。
そうすれば、今後、より適切な選択をすることが可能になるでしょう。
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