私たちは、日常生活において何かを選ぶという機会には数多く遭遇します。
あまり意識していなくても、朝起きてどの服を着るかを着るかを選び、何を食べるかを選ぶところから、仕事や家事で何をするか、そしてどのようにするかも、選択しているのです。
服を選ぶことや、何を食べるか選ぶことのように、日常的なルーティーンになっていることであれば、意思決定の際に特に考える必要はなく、経験則に基づいて無意識のうちに選択は行われています。
しかし、たとえば大きな買い物をするときや、キャリア選択など、いつも決めていることでなければ、経験則に基づいて決めることができないため、顕在意識で良く考えて意思決定を行わなければならなくなります。
顕在意識で意思決定を行う場合は、頭を使いますし、時間もかかります。
このように顕在意識をフル活用して意思決定を下す際には、迷ってしまったり、長時間悩み続けたりして、決断するのが苦手だという人も少なくありません。
選択の際に決断できずに悩むことは、時間の浪費になりますし、エネルギーも多く必要とするので、できれば悩まずに決めたいところでしょう。
そこで今回は、これさえ知っておけば、意思決定の際に迷わない、少なくとも悩まなくなるという意思決定の秘訣をお伝えします。
迷った状態でいくら考えても「良い意思決定」を行うことはできない
まず知っておきたいことは、もし、意思決定の際に迷ってしまったら、それ以上時間をかけて検討を続けても、「より良い意思決定」を行うことはできないということです。
時間をかけて良い意思決定を下そうと思っても、時間をかければかけるほど、何が何だか分からなくなることが多いのです。
なぜそうなるかというと、迷っている状態というのは頭が混乱している状態なので、その状態でいくら考えても思考が堂々巡りするだけだからです。
このような状態では、あっという間に時間は過ぎ去ってしまいますし、誤った意思決定が行われる可能性が高まってしまいます。
ですから、迷ってしまった場合には、これ以上、判断材料を集めたり、より詳細に調べたりするのではなく、意識的に一旦、その対象から離れるようにした方が良いのです。
そうすれば、迷った状態で考え続けることによる、時間と労力の浪費を避けることができます。
時間が経って、睡眠などによって脳の情報が整理されれば、混乱は収まり、冷静な状態でより良い意思決定を下せる可能性が高くなります。
迷う人と迷わない人の違いは何か?
何かを選択する際に迷う人と迷わない人がいますが、その差は一体どこにあるのでしょうか?
意思決定に対して即断即決できる人は、何か違いがあるのでしょうか?
迷うか迷わないかの差は、性格によるところもあります。
たとえば、好き嫌いがはっきりしている人は迷うことがありません。
好みが偏っていれば、選択肢は自ずと狭まることになるので、消去法で決まってしまうのです。
服選びを例に挙げれば、もし、Tシャツは黒の無地しか着ないという人であれば、Tシャツを選ぶときに一切迷うことはありません。
普通の人は、特別に好きなものが決まっているわけでもないので、色々な選択肢があり、どのTシャツを買うか迷うことになるのです。
自分の好みをはっきりさせること、あるいはスタイル、ルールというものをあらかじめ決めておけば、選択の際に迷うことは少なくなります。
たとえば、目立つ色のものは買わないとか、安っぽく見えるものは買わないというような自分のルールをあらかじめ決めておけば、意思決定をはるかにスムーズに行うことができます。
迷う人と迷わない人の違いにおいて、最も重要な点は、「完璧さを求めるかどうか」です。
迷う人は完璧主義者であることが多く、そのような人たちは「失敗を避けたい」、「何が何でもベストな選択をしたい」と考えているのです。
それに対して迷わない人は、意思決定をすることをそこまで深刻に捉えず、必ずしもベストな選択を行わなくても、ベターな選択ができればそれで十分だと考えています。
完璧主義者であればあるほど、失敗をしたくないという気持ちが強く、「ベスト・オブ・ベスト」の最高の選択をしたいと思うので、細かいところまで比べて悩む可能性が高くなってしまうのです。
しかし、たとえどんなに時間と労力をかけてもベスト・オブ・ベストの選択というものはできないのです。
Tシャツを選ぶという意思決定でも、ベストの選択を望むのであれば、すべての選択肢をピックアップして検討する必要が出てきます。オンラインショップも含めれば、買うことのできるTシャツは世界中に無数に存在し、そのすべてを検討するのは、現実的に不可能と言えるからです。
ですから、意思決定の際にはベストの選択ではなく、ベターな意思決定が行えればそれで充分であることを理解することは、迷わないための重要な心構えなのです。
全てを比べようと思わないこと
迷うのは、あらゆる相違点に注目してしまうからです。
私たち人間は、同じところでなくて、違うところに注目する傾向を持っているので、それは仕方がないことなのですが、それらの違いをすべて選択の際の判断材料にしてしまうと、意思決定は困難になってしまいます。
たとえば、転職先を選ぶ場合に、この会社は給料が高い、この会社は福利厚生が厚い、この会社は立地条件の良い所にある、社会的な評価が高い、仕事の内容が好みに合っている、休みが取りやすい、安定している、成長しているなどといったように、あらゆる面で比較すると選ぶのはとても大変です。
比べれば比べるほど、違いが目立ち、何を基準に判断すればよいのかわからなくなってきます。こうなると迷ってしまいます。
実際には比べる必要がないような事柄でも、違いがあることで、つい比べたくなってしまうのです。
ですから、すべての相違点を比べるのではなく、何か一つだけ一番重要だと思える事柄を決めて、それだけを基準として意思決定を行えばいいのです。
複数の基準による意思決定は困難ですが、単一基準による意思決定は容易に行えます。
先に挙げた例の転職先選びでいえば、自分が最も重要視する事柄、たとえば仕事の内容を重視するのなら、それ基準として、その他の違いには、注目せずに決定を行えばいいのです。
そうすれば、多数の相違点に惑わされずに、最も重要な事柄を外すことなく、素早く決断ができるようになります。
意思決定によってもたらされる未来に期待しすぎる
私たち人間は、未来を予測する際に、過剰に期待をし過ぎてしまう傾向にあります。
たとえば、「何かを手に入れれば幸せになる」という予測です。
私たちは、「昇進すれば幸せになれるだろう」とか、「この車を買えば素敵な毎日が送れるだろう」という予測をしますが、それを手に入れても、期待していた以上の満足度が得られないのは世の常です。
たとえ手に入れたものによって、期待していた通りの満足感が得られたとしても、それはほんの短い時間だけで、持続はしません。
自分が好きなものを買おうとするときには、これを買えば喜びがもたらされるだろうと期待するものですが、いざ買ってしまえば、それが思ったほどの喜びをもたらさず、また次の物が欲しくなるというのも、その身近な例です。
このように、人は未来の自分の感情に対して大げさに見積もってしまうものなのです。
ですから、意思決定を行うことによってもたらされる未来の感情の変化に対しても、過大評価をしてしまい、それが迷う原因になるのです。
Aを選んだら、こういう結果になるだろう、Bを選んだらこうなるだろうというように、自分の選択した結果によってもたらされる未来の感情の変化を過大に見積もると、その意思決定が重要なことのように感じてしまい、慎重になって、なかなか決断するができなくなります。
Aを選んでも、Bを選んでも、その結果としてもたらされる変化は予測より小さいことがわかっていれば、意思決定もそれほど迷わずに行うことができます。
私たちは選んだものを好きになる
私たちは意思決定の際に、「好きなものを選ぶ」ものですが、実はその逆も成り立ち、「選んだものを好き」にもなるのです。
もともと好きでもないと思っていたものでも、選択することによって好きになるものなのです。
たとえば、Aの商品か、Bの商品をもらえるとします。そのときに、Aを選んだ人は、Aを高く評価し、Bを選んだ人はBの方を高く評価するものなのです。
これは、人間の持つ「保有効果」という心理作用によるものです。私たちは、「自分の物」になったとたんに愛着を持ち、手に入れる前よりも高い評価を下すようになるのです。
自分の物をなかなか捨てられないというのも、この保有効果が働いているからです。他人から見たら、価値のないものに思えても、自分の持ち物には高い評価を下してしまうものなのです。
選んだものを好きになる心理作用は、保有効果ばかりではありません。
人は自分のことが一番好きなので、自分の物や、自分のいる場所、自分の考え、自分の選んだものを高評価をするのです。これは「自前主義バイアス」という心理作用が働いているからです。
また、人は「認知的不協和」を避けるために、見方を変えるものであるということも知っておきたい重要なことです。
「認知的不協和」とは、人が自分の中で矛盾する認知を抱えたときにおこる不快感のことです。
「認知的不協和」の分かりやすい例は、イソップ寓話の「酸っぱいぶどう」にみることができます。
寓話では、キツネがあるときに、たわわに実ったおいしそうなブドウを見つけます。しかし、そのブドウは高いところにあり、キツネは頑張って何とか取ろうとしますが、どうしてもブドウに届きません。
仕方がないのでキツネはあきらめてその場を去りますが、その際に「あのブドウはきっと酸っぱくて、まずかったに違いない」と言うのです。
これは、おいしそうに見えたブドウを手に入れることができなかったキツネが「欲しい、でも手に入れることができない」という認知的不協和を解消するために、見方を変えたのです。
「酸っぱいブドウだから食べなくてよかった」という、自分にとって明るい見方をすることによって、不快感を解消したのです。
このように、人は選んだものを好きになり、選ばなかったものを嫌いになることで、意思決定後に不安になるのを避けようとするのです。
選んだものを好きになる理由には、「単純接触効果」と呼ばれるという心理作用もあります。
これはとても強力な心理作用で、人は見たり聞いたりして、単純にあることに繰り返し接触するだけで好きになるのです。
良く流れている曲を好きなるのも、メディアで頻繁に見かけるタレントに好感を覚えるのも、良く会う人に親しみを感じるのも「単純接触効果」によるものです。
ですから、意思決定によって選ばれたものには何度も接することになるので、そのうちに好きになるのです。
以上のように、私たちは選んだものを好きになるものなので、それを踏まえたら、迷ったら、どれを選んだとしても、後悔することはないと言えるのです。
そもそも、迷うということは、選択肢それぞれに何かしらの魅力があると感じている証拠です。
箸にも棒にも掛からないような選択肢は、迷う前にすでに除外されているのです。
そのような状態であれば、どれを選んでも失敗したと感じることはないので、もっとも重要だと思う点を一つだけ決めて、それを基準に選べばいいのです。
まとめ
自分にとって重要だと思うことを決めるときに迷いがちな人でも、できれば迷わずに即断即決をしたいと思っている人が多いものです。
意思決定に悩んでいるときには、多くの時間とエネルギーが消費されるからです。
意思決定の際に悩まなくなるためには、下記の4点のことを忘れないようにすると良いでしょう。
1.いくら時間をかけて悩んでもより良い意思決定ができるわけではないこと。
2.すべての違いを比べるのではなく、最も重要だと思う単一基準によって意思決定をおこなうこと。
3.私たちは自分が選んだものによってもたらされる未来を期待しすぎるが、良いことであれ悪いことであれ、予測していたほどの感情の変化はもたらされないこと。
4.私たちは選んだものを好きになるということ。
コメント