一度に複数のことを行う「マルチタスク」。
このマルチタスクの弊害について言われるようになって久しいですが、 マルチタスクが良くないということが分かっていても、やめることができない人も多いのではないでしょうか?
今回は、マルチタスクをしている人に、「なぜ、マルチタスクをするのか?」と聞いたときに返ってきた理由と、マルチタスクの弊害、そしてマルチタスクをやめる方法についてお伝えします。
マルチタスクを行う理由
たとえば、書類を作っているときに、度々メールをチェックして返信したり、途中で電話をかけたりというようなマルチタスクを行っている人に、「なぜマルチタスクを行っているのですか?」と、理由を尋ねてみると、ほとんどの人から、「効率的だから」、「時間が節約できるから」、「一度に多くのことができるから」というような答えが返ってきます。
このように答える人の多くは、マルチタスクがもたらす弊害を知らないのです。
つまり、仕事を同時に何個行えば、単純に多くの仕事がこなせると思っているのです。
確かに、同じ時間内に1つの仕事ではなく、2つ以上の仕事を「同じクオリティ」で仕上げることができるのなら、それは効率的であるといえます。
そして、マルチタスクを行っている人たちは、それが実際にできていると思っているから、マルチタスクを行っているのです。
後ほど詳しく述べますが、実はそれは思い込みであって、実際には2つ以上の仕事をうまくこなせていることはほとんどありません。
また少数派ですが、マルチタスクが良くないということは知ってはいるけれど、その弊害をそれほど重要視してない人たちもいます。
このような人たちは、マルチタスクに弊害があることを知識としては分かっているけれど、その弊害を実感できていないから、結局マルチタスクを行っているようです。
マルチタスクによる弊害は、マルチタスクの仕組みを理解して意識しなければ、実感することはあまりないのかもしれません。
マルチタスクの原理を理解する
人間は、一度に2つ以上のことに「集中」することはできません。
たとえ、どんなに訓練を積んだとしても、人の注意力は一つのことにしか振り向けられないのです。なぜなら、そのように脳ができているからです。
そのことは、簡単な思考実験からも実感することができます。
例えば、楽しかったことと、嫌だったことを「同時に」思い浮かべてみてください。
いかがでしたか?
おそらく、同時に思い浮かべることはできなかったのではないでしょうか?
人の脳の仕組みがそうなっているので、それは当然の結果です。
もし、同時に思い浮かべることができた人がいたのなら、 それは、「楽しかったこと」と「嫌だったこと」を、 別々に思い浮かべて、それをパッパッと交互に切り替え続けていたということです。
マルチタスクの仕組みも、これと同じなのです。
マルチタスクは、シングルタスクに比べて、同時間内に複数のことを行えるようになるのではなく、 立て続けに一つのことから、もう一つのことへと、 注意を切り替えて、別々に行っているだけなのです。
マルチタスクの弊害
1.集中力が失われる
マルチタスクを行っているということは、一つのことに集中していないということです。
人が、複数のことを同時に行う場合、一つのことだけには注意を向けていられません。一つのことを行っているときでも、頭の片隅で他のことも考えていないといけなくなるからです。
その結果、一つのことに集中することができなくなるのです。
集中することができないと、重要な課題を見逃す可能性が大きくなります。
例えば電話しながら、メールをチェックするということはできますが、その代わりに両方とも重要な情報を見落としやすくなります。
同時に複数の課題に取り組むと、結局は、どの課題に対しても最善を尽くすことは出来なくなってしまうのです。仕上がりの質は必ず下がってしまうのです。
また、一つのことに集中する習慣がないと、気が散りやすくなり、集中力自体が損なわれてしまいます。
言い換えると、マルチタスクを行えば、集中するという習慣が失われていき、どれも中途半端にしかこなせなくなってしまうのです。
2.生産性が下がる
同時に複数のことを行うと、効率が良いように感じるかもしれませんが、実際には効率が悪くなることが複数の研究結果により明らかにされています。
マルチタスクの正体は、前述したように集中する対象を次から次へと素早く切り替えることですが、それにはシングルタスクを行う場合にはかからない余計なコスト、「スイッチング・コスト」が発生するからです。
脳が課題を切り替えて集中するまでには時間がかかります。マルチタスクは、これを何度も繰り返すのですから、生産性が下がるのも当然です。
また、脳は切り替えを繰り返すことでエネルギーを消費するので、脳が疲労してしまいます。
マイクロソフトの基礎研究機関である、マイクロソフトリサーチ (MSR)による研究では、マルチタスクによって作業効率が最大40%も下がると報告されています。
マルチタスクは生産性が上がるように思えても、実際にはその逆で、生産性は下がってしまうのです。
3.脳の機能が衰える
マルチタスクを頻繁に行うことで、頭を切り替える能力や、 情報処理の能力が上がるのではないか、という意見もあるかもしれません。
確かに、日常的に行っていることは、慣れて上達しそうな気もします。
しかし、真実は全く逆の結果でした。
スタンフォード大学教授のクリフォード・ナスは、 このように結論付けています。
複数のことを同時にする人は、あらゆる場面でお粗末な結果をもたらす。
fMRI(MRIの原理を応用して、脳が機能しているときの活動部位の血流の 変化などを画像化する装置)で、複数のことを同時にこなす人の脳を調べた結果、 日常的に複数のことを同時にこなす人は、見当違いな情報を排除することができず、 情報を整理して記録することもできず、一つの仕事から別の仕事に 切り替えるもの下手だと分かった。
マルチタスク行う人は、脳の切り替えや情報処理がうまくなることはなく、 逆にそういう能力自体、つまり、脳の機能自体が低下してしまうのです。
マルチタスクをやめるには
マルチタスクは、一見効率的に見えたり、一生懸命働いているように錯覚したりと、魅力的に映りますが、実際にはマイナスの作用しかありません。
マルチタスクをやめるには、まず「マルチタスクを行っても良いことはひとつもない、結果的に損をするのだ」ということを理解しましょう。
「マルチタスクは弊害しかもたらさない」と頭では理解していても、マルチタスクを行うことは、習慣や思考のクセによるものなので、急にやめるのは難しいかもしれません。
しかし、マルチタスクしないということを意識して、毎日少しずつ、確実にシングルタスクを行うように習慣づけしていけば、思考のクセも改善されていきます。
食べるときにTVを見るのもマルチタスク
多くの人が、食事の時にTVを見たり、スマホを見たり、雑誌を見たり、「ながら食事」をしています。
普段あまり意識することがないかもしれませんが、「ながら食事」も、マルチタスキングです。
食べながら、スマホやTVを見ている人に、その理由を聞くと、「食事をする時間で、情報も得られるので、一石二鳥だ」と言います。
しかし、実際は、食事に対する意識がおろそかになり、食事から得られる効果を十分に受け取ることができず、また、スマホやTVから得られる情報も中途半端になり、二兎を追う者は一兎をも得ずという状態になっています。
ながら食事をすると、情報が中途半端にしか入らないのは、仕方がないことだとしても、食事から得られる効用が中途半端になるのは大きな損失です。
このことについては、また後で述べますが、食事というものは、私たちの体を作る大切な行為で、集中力、IQ、パフォーマンス、ストレス、病気、老化、睡眠など、私たちの心身に大きな影響を及ぼしています。
しかし、食事が心身に与える影響の大きさを甘く見ている人が多いので、ながら食事というマルチタスクを行ってしまっているのです。
食事を通してシングルタスクの習慣を身につける
食事は誰もが毎日、必ず行うことです。
多くの人は毎日3回食事をするので、このときにマルチタスクをしないと決めましょう。
この決まりを守ることにより、一日に3回は、マルチタスクをしないということを意識して、シングルタスクを行うことができます。
マルチタスクの弊害を頭で理解することよりも、実際に行動して、自らの行動のフィードバックを通して、習慣を身に付けていくことの方が重要です。
食事をするときは、食事を楽しむことに集中し、マルチタスクをしないという意識と行動を続ければ、 マルチタスクをやめる習慣を身に付けるのに効果的です。
食事のときにマルチタスクをしてしまわないようにする重要なポイントは、マルチタスクを行ってしまいそうなものを物理的に遠ざけることです。
たとえば、食事中についスマホを見てしまうというのなら、食事をする前ににスマホを見えないように引き出しの中にしまっておくとか、TVを見てしまうのなら、TVのリモコンを見えないようにしまっておくと良いでしょう。
何かを変えるときには、意思の力だけに頼るよりも、環境を整える方が効果的です。
このことについては、関連記事「意志が弱くても自分をコントロールできる方法」も参考にしてみてください。
また、「ながら食事」をしなければ、「ながら食事」がもたらす以下のようなたくさんのデメリットが解消されます。
・食べ物の味が楽しめない
・食に関心を持てなくなる
・食事の量がコントロールできない
・食事に対する感謝の心が生まれない
・消化吸収に悪影響を及ぼし、栄養が十分に吸収できない
・よく噛まないことによる唾液の分泌の減少等、様々な弊害
食事のときにマルチタスクを行わないことで、これらのデメリットが解消され、しかも、マルチタスクをしないという習慣も身に付くのですから、試してみる価値はありますよね。
まとめ
原則的に、マルチタスクをはしないに限ります。
複数のことを同時に行うことは効率的だと思いがちですが、実際には非効率的なのです。
マルチタスクをすれば生産性が下がり、しかも脳の機能が衰えてしまいます。
マルチタスクが良くないことを理解していても、マルチタスクを行ってしまうのは思考のクセによるものなので、毎日確実にシングルタスクを行う習慣をつければ改善に効果的です。
まずは、毎日確実に行う「食事のとき」に、TVを見たり、スマホを見たりという、マルチタスクをしないようにしましょう。
そうすることで、マルチタスクをやめる習慣が付き、更に食事からの得られる恩恵も大きくなるなど、様々なメリットが受けることができます。
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