プラセボ効果(プラシーボ効果)というものをご存知でしょうか。
プラセボ効果とは、有効成分が含まれていない偽薬、あるいは偽の手術などによって、症状の改善や副作用が現れることを言います。
つまり、薬や治療行為そのものではなく、「効くと思ったから効く」という人間の心働きだけによって、変化がもたらされることです。
たとえば、小さな子供が転んだときなどに母親がするおまじない、「痛いの痛いの飛んでいけ」。
あるいは、ホメパシーや気功や鍼治療などの科学的根拠のない代替医療行為でも、症状の改善が表れる場合があるのは、「治療をしているから治る」という思い込みによるプラセボ効果の働きによるものなのです。
今回は、プラセボ効果からわかる、心の持ち方の重要性をお伝えします。
心が体に与える影響の大きさは計り知れない
整形外科医のモーズリー医師は、テキサス州ヒューストンの退役軍人病院の変形性関節症の患者180人に声をかけ、患者を三つのグループに分けました。
一つ目のグループには標準的な治療を行いました。その内容は、麻酔、3箇所の切開、関節鏡の挿入、軟骨の切除、損傷した軟部組織の修復、10 リットルの生理食塩水による関節内の洗浄です。
二つ目のグループは麻酔、3箇所の切開、関節鏡の挿入10 リットル の生理食塩水による関節内の洗浄を行いましたが、軟骨は切除しませんでした。
三つ目のグループ(プラセボ群)には、擬似手術を行いました。つまり、外見の傷跡は他の2グループの治療と似ていて手術にかけた時間も同じでしたが、関節内には何の手術道具も入れなかったのです。
医師たちは手術後の2年間、3つのグループの経過を追って、痛みの軽減と歩行や階段の登りにかかる時間を検査しました。
その結果、完全な手術を受けた一つ目のグループと、関節鏡視下洗浄を受けた二つ目のグループは満足していて、家族や友人にも手術を勧めると答えました。
偽の手術を行った三つ目のグループはどうだったかというと、驚くべきことにプラセボ群も痛みが軽減され歩行が改善していたのです。そればかりか、改善の過程は本物の手術を受けた人となんら変わらなかったのです。
この結論にモーズリーの研究の共著者だったネルダ・レイ医師はこう述べています。
ひざ関節症患者に対する関節鏡視下洗浄と関節鏡視下切除の効果がプラセボ手術の効果より大きいわけではないという事実はこの治療に費やされている10億ドルをより有効に利用した方が良いのではないかという疑問を抱かせる。
このことが示しているのは、患者は手術自体の効果によってではなく、「手術を受けたから症状が良くなる」という思い込み(心の持ち方)によって、痛みや不快感が取り除かれたということです。
これは特例ではなく、このようなプラセボ群を用いた二重盲検臨床試験は数多く行われています。
2014年に専門家たちが、膝関節炎から狭心症にいたる症状に対する要望な外科手術について、53件のプラセボ対象試験を分析し、その半数で偽の手術が要望な外科手術と同程度の良い結果を出していることを確認しました。
プラセボ研究のパイオニアの一人である神経科科学者のファブリッツィオ・ベネディッティは、「プラセボについて知れば知るほど、臨床試験で見られる良い結果の多くがプラセボ効果に起因していることがわかる」と述べています。
当然のことながら、偽薬や偽手術それ自体には治療効果は全くありませんが、手術をしてもらったという安心感や、これで治るだろうという希望的観測など、プラセボに対して患者が様々な解釈をするため、結果として、症状に変化が起こるのです。
プラセボの有効成分の正体は、「思いやりや共感、社会的な支援やつながり、希望、信じる心、信念、祈り」などでしょう。これらの要素は、研究によって、健康や長寿と関係があることがわかっています。
現代では、心と体は切り離されて考えられています。
そのため、医療では体に対してのみ治療を行っています。
しかし、心と体は切っても切れない相関関係にあり、人間の健康はもちろん、運命や人生などといったものは、実は心の持ち方によって大きく違ってくるものなのです。
したがって、健康的にも運命的にも、よりよい人生を謳歌するためには、心を消極的にするのではなく、積極的にすることが重要となるのです。
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