ビジネスで、目標を達成したい、成績を上げたいという気持ちは、多くの人が持っていると思います。
目標を達成するために、あるいは、良い成績を出す手助けになるように、ボーナスを設定したり、ご褒美を用意する企業も多いのですが、目標を達成する手助けになる方法は、報酬でだけはありません。
もっと効果的な方法があるのです。
今回は、結果を出すための「効果的なコミットメント」の作り方についてお伝えします。
コミットメントとインセンティブはどちらが効果的か?
コミットメントとは、約束したことを守ると言う決意や、公約のことを言います。
インセンティブとは、人のやる気や意欲を引き出すために、外部から与えられる刺激を指し、具体的にはボーナスや旅行、商品などの報酬のことです。
インセンティブは、馬の前にニンジンをぶら下げるのと同じことです。企業では良く使われている方法です。
コミットメントとインセンティブではどちらが効果的に働くと思いますか?
お金や景品などのご褒美は、コミットメントに比べると、わかりやすいので、直観的にはインセンティブの方が有効に働くと感じるかもしれません。
直観的には、ボーナスの金額が高ければ高いほどやる気が出て、結果が良いものになると思うのです。
しかし、行動経済学者のダン・アリエリーがインドで行った実験では、高いボーナスを提示すると、直観に反して、成績が逆に悪くなることを示しました。
実験参加者は、想像力、集中力、記憶力、問題解決能力が求められる6つのゲームを行うことを説明され、ゲームを始める前にいくら報酬がもらえるか、サイコロで決めます。
サイコロを振って、少額ボーナス、中額ボーナス、高額ボーナスのうち、いずれかが提示され、ゲームの成績次第で、ボーナスをもらえるか金額が違ってきます。
少額ボーナスは、インドの実験を行った地域での平均賃金の1日分に等しい額になります。中額ボーナスは、2週間分相当の金額、高額ボーナスは、5カ月分の相当の金額です。
1つのゲームでいい成績を出すと「優」でそのゲームに割り当てられた全額を全額もらえます。まあまあの成績を出すと「良」で半額もらえます。良に届かないと「0」で報酬はなしです。
ボーナスを6つのゲームに振り分け、もし6つすべてゲームで「優」の成績を出せば、ボーナスが全額もらえる、もし、6つのゲームすべて「良」ならボーナスが半額になるというわけです。
ボーナスは、成績によってまったくもらえない「0」から、全額もらえる可能性があると言うことです。
さて、ボーナス差は、そのまま成績の差につながったでしょうか?
直観的に考えると、少額ボーナスが提示された人より、高額ボーナスを提示された人の方が、やる気が出て、良い成績を収めると思いますよね。
実験の結果は、どうだったかと言うと、小額ボーナスと中額ボーナスを提示された人は成績に差がありませでした。
高額ボーナスを提示された人は、なんと、小額ボーナスと中額ボーナスを提示より成績が悪かったのです。
高額ボーナスを提示された人たちは、緊張しすぎて、プレッシャーがかかり、ゲームを上手く行うことができなかったというのです。
このようにインセンティブは、報酬が大きくなると、報酬に気を取られて、それがストレスになり、効果が出ないか、逆効果で成績が悪くなる場合もあるのです。
最高の結果を出さなければならないと気持ちが焦っていると、モチベーション過剰がになり、たいていは失敗します。
少なくとも、高すぎる報酬は、成績を上げる効果はなく、逆に成績を下げてしまうようです。
どの程度に設定した報酬が、どのように精神に働くかは分からず、インセンティブが効果的に働くかは、不確実要素が大きいのです。
コミットメントは、やるべきことを公言して、そこから生まれる社会的な圧力が原動力になります。
自分で公言したのだから、言ったとは守らなければならないと言う、「内的な圧力」と、周りの人たちから、宣言したことを守らない人間だと思われたくないと言う思い、世間の目と言う外的な圧力がかかります。
金銭に左右されず、やらなくてはいけない動機だけが作られるので、インセンティブより効果的に働く可能性が高いのです。
効果的なコミットメントを作るための3つの注意点
効果的なコミットメントにするためにはいくつか条件があります。
ここでは重要な点を3つ挙げます。
1.公言をする相手が甘い人では効果はない
コミットメントを知る人が、コミットメントの結果に対して、公正な判断をする人ならいいのですが、甘い人では効果的に働くなる可能性が低くなります。
コミットメントの結果を判定する人が、表面的に優しいと、コミットメントを実行しなくても、結果が悪くても、大目に見てくれるだろうと言う甘えが生まれたり、寛大に(ごまかして)評価したりしてくれるので、外的な圧力がかからないのと同じことになってしまいます。
それでは、何のためにコミットメントしたのか分からなくなるので、コミットメントした結果を公正に判断してくれそうな人にも、コミットメントの内容を知らせると良いでしょう。
公正に判断してくれる人や、厳しい人が知ると、外的圧力が強まるので、コミットメントは効果的に働きます。
2.金銭的なものを賭けない方が良い
コミットメントを作るときに注意したいのは、コミットメントに金銭的なものを賭けないと言うことです。
コミットメントを達成できなければ、10万円を差し上げますとか、商品を差し上げますというような約束をすると、約束した金額を払えばやらなくても良いと言う心理が生まれるのです。コミットメントを果たさず、お金を支払ったとしても、それはそれで約束は守られたことになるので、この金額さえ払えば、やらなくても良いと言う心理的抜け道です。
とくに、自分にとって、ダメージの少ない金額は逆効果になります。
イェール大学のロースクールの教授であるイアン・エアーズは、卒業論文が不出来なある学生に、合格はさせるが、新学期までに改訂版を提出するという条件付きの合格点を与えた。
そして、もし、論文を新学期の9/1までに提出しなければ、毎月好きな慈善団体に100ドルずつ寄付することで、その約束にコミットするように言った。
その学生は改訂した論文を結局提出しなった。
その学生は、エアーズ教授が気付くまで、10年に渡り、毎月慈善団体に寄付し続けていたのだった。
後日談で、その元学生は、コミットメントしたときに、「だったら、年に1200ドル慈善団体に寄付し続ければそれで問題ないのね」と思ったが、それをいったら、そういうことではないと教授に言われることは分かっていたので、口には出さず、逃げ道を残しておいたことを打ち明けた。
このように、コミットメントに金銭的なものを賭けると、それを払えばやらなくても良いと言う心理が働くのです。
とくに、コミットメントを達成するために行動しているるうちに、うまく行かないと、こんな逃げ道に入りたくなるので、コミットメントを有効に働かせるに、賭けるものは「自分の名誉」が一番いいのです。
コミットメントを有効に働かせるには、他人からダメ人間と思われたくないという「名誉」を賭ければ、他人からダメ人間と思われたくないと言う気持ち、恥をかきたくないと言う気持ちが、行動のための強い動機となります。
3.ハードルの高すぎるコミットはうまく行かない
コミットメントをあまりしたことのない人は、約束を守ることの大変さを過小評価して、ハードルの高いコミットメントをすることが少なくありません。
私はセミナーなどで、参加者に自分の目標のコミットメントを作ってもらうことがありますが、初めての人は、ハードルの高い約束をしてしまい、「とてもではないけど、できなかった」と報告を受けることは何度も経験しています。
ハードルが高すぎると、もう頑張ろうという気さえ起らず、コミットメントを破棄することになってしまうのです。
コミットメントは、初めから大きなものにせず、小分けにしたり、ハードルを低いモノを達成してから、徐々に上げていけば、コミットメントを効果的に働かせることができます。
まとめ
やるべきことをやるための動機づけとして、効果的に働くのは、インセンティブよりコミットメントです。
金銭的報酬などのインセンティブは逆効果になる場合あり、それが行動の動機としてうまく機能するかは分かりません。インセンティブが有効に働くかどうかは、不確実性が大きいのです。
コミットメントを作るときに注意したいのは、コミットメントを誰に言うかという点と、金銭的なものを賭けないという点と、ハードルを高くし過ぎないことです。
あなたも、コミットメントの力を活用して、やるべきことをやるための原動力を作り出してみてはいかがでしょうか。
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