「無くて七癖」のことわざ通り、私たちは誰でもクセはあるものです。
しかし、周りから見て、明らかに悪いと思うクセというのは、やめさせてあげたいと感じることもありますよね。
でも、たいていの場合、それを本人に伝えても、うまく行きません。
悪い習慣、悪い癖をやめさせたいという相談は良くいただくので、その方法を一般化してお伝えします。
他人に迷惑を及ぼさないクセは指摘しても変わらない
悪い癖を、他人との関わりの視点から大別すると、他人に迷惑をかける癖と、他人に迷惑をかけない癖に分けられます。
他人に迷惑をかける癖の場合は、周りの人が迷惑していると何度も繰り返し伝えていけば、少しずつ改善していくものです。
人間は社会的な生き物なので、他人に迷惑をかけていることを認識すれば、多少なりとも罪悪感が働くき、改善しようと思うからです。
罪悪感が働くと、意識せずとも無意識のうちに気を付けてしまうものなので、自然と悪い癖も抑制されます。
しかし、本人が誰にも迷惑をかけていないと思っている悪い習慣をやめさせるのは一筋縄ではいきません。
たとえ、周りの人が指摘したとしても、「いいから、ほっといて」と言われるか、嫌な顔をされるだけです。
もしこのような状況に遭遇したときは、「誰にも迷惑がかからないのだから、放っておいても良いのではないか?」と自問してみてください。
その答えが「否!放ってはおけない」ではないのなら、それ以上は何も言わないのがお互いにとって得策になります。
もし、どうしても「放ってはおけない、悪癖をやめさせたい」と思うのであれば、それは人間の持つ「人を助けてあげたい」という心理が働いているからです。
家族や友人、恋人など、相手に近い人ほど、放っておけない、良くしてあげたいという感情を持つものです。
周りから見て、明らかに本人にとって悪影響を及ぼす悪い習慣だと感じるなら、その気持ちも強くなると思います。
だからといって、「よくないからやめた方が良いよ」と何度も繰り返し言っても、本人はそれを良くないとは思っていないので、なかなかそれを止めさせることはできません。
ですから、違う方法を取る方が良いのです。
悪い習慣を取りづらくしてあげる
人間の行動の大半は、考えて意識的に行っているのではなく、無意識で行っています。
癖や習慣というのは、悪いことであれ、良いことであれ、考えることなく、ほぼ無意識のうちに行えるようになっていることです。
ですから、忠告や教育などにより、意識の面から変えようとしても、なかなかうまくいきません。
悪い習慣を変えさせるには、社会心理学で言う、「プライミング」や「デフォルト」や「コミットメント」など、自動的に行動を促す心理作用を活用すれば、考え方を変えるように教育するより、はるかにうまくいきます。
よくある相談例である、家族が食事をしながらスマホを見るのを止めさせたい場合を例に挙げながら、これらのことを説明していきます。
プライミング
「プライミング」とは、人の行動は先行刺激(プライム)によって影響を受けることを言います。
たとえば、「杖、入れ歯、白髪」など老人を連想させる言葉を思い出させると、その後の動作がゆっくりになることが実験でわかっています。
食事中にスマホを見るのをやめさせたい場合は、食卓の上に「食事をしながらのスマホは健康を害する」などと書いたカードを置いておくのが良いでしょう。これがプライムとなり、行動に影響を及ぼします。
カードに書く文言は、本人が気にすることを書くのが望ましいです。
もし、体重を気にしているのであれば、「食事をしながらスマホをすると、食べ過ぎてしまう」と書くと良いのです。
実際に食事中にスマホなどをすれば、食べることに注意を向けられていないので、食事から得られる喜びが減ります。
そして、食事からなかなか喜びが得られないので、喜びが得られるまで食べようとします。
その結果として、ながら食事をすると、量を多く食べてしまうことが研究でわかっています。
デフォルト
「デフォルト」は、人はあらかじめ設定されたことに従う傾向にあることを言います。
ここでひとつ問題を出します。
ドイツのドナー登録率は12%ですが、隣のオーストリアは99.8%です。ドイツとオーストリアは、隣国同士で文化も変わらないのに、この劇的な差はどこから来ているのでしょうか?
オーストリア人は臓器提供に関心があり、ドイツ人は関心がないわけではありません。分化や教育による差ではないのです。
その答えは、デフォルトにあります。
ドイツでは臓器提供しないことがデフォルトになっており、臓器提供をする場合は意思表示をしなければなりません。
オーストリアでは臓器提供することがデフォルトになっており、臓器提供をしたくない場合は意思表示をしなければならないのです。
「デフォルト」が、これほどの多くの差を生み出しているのです。
人はあらかじめ決まっていること(デフォルト)には、あえて労力をかけて変化を起こそうとせず、そのまま従うものなのです。
デフォルトを食事中のながらスマホに応用するなら、例えば家庭内で、ダイニングにはスマホを持ち込まないということをデフォルトのルールにするとか、あるいは、食卓に座る前には、決められたカゴにスマホを入れる、電源をオフにするなどというように、あらかじめ家庭内でデフォルトのルールを決めておくと、自然にそれに従うようになります。
コミットメント
「コミットメント」とは、約束を守ること、あるいは、約束したことを守ろうとする決意のことを言います。
人は何かについて公言した場合、行動と一致させようとする心理が働きます。
つまり、他人に見える形でコミットメントすると、一貫した人間に見られたいという気持ちが働き、自分の内からの圧力と、周りの目という外部からの圧力がかかり、公言したことを実行しやすくなるのです。
コミットメントを、食事中のスマホをやめさせるために応用するなら、例えば、カードにでも「食事中はスマホをしないと誓います」と誓約カードを書かせるとか、家族や友人などに「食事中はスマホをしないことにした」と公言するように言うことです。
SNSを使うのが好きなら、そこへ投稿するのも良いでしょう。
コミットメントをさせるときの注意点は、食事をしながらスマホを見ているときに、それをやめることを公言することを提案しないことです。
食事をしながらスマホをしているときの状態は、ある種の中毒状態にあるので、それをやめることは、一大事だと思ってしまいます。
しかし、食事をしていないときは、中毒状態にないので、食事中スマホのときに感じている気分が想像できず、食事をしながらスマホをしないくらいなんでもないと思うものです。
食事をしていないとき、スマホを使用していないときに提案するのが良いでしょう。
行動が変われば、思考も変わる
一般的に、「思考が変われば行動も変わる」と言われていますが、その逆に、行動によっても思考が変わります。
そして、教育で思考を変えるよりも、行動を変えるように促した方が、早く思考も変わります。
食事中のスマホは良くないと、考え方を変えるように何度も教育しても、実際に行動を変えるようになるまでには多大な労力と時間がかかります。
さらに、自分がそれほど悪いと思っていないので、成功する確率は低いです。
しかし、「プライミング」や「デフォルト」や「コミットメント」を活用して食事中にスマホをしないという行動を取っていれば、行動からのフィードバックにより思考が変わります。
つまり、食事のときにスマホをしていないという行動をしているということは、食事をするときにスマホをするのは良くないことだと考えているからだと認識するのです。
「ながら食事」の弊害については、下記関連記事もご覧になってください。
まとめ
人間の行動の大半は、無意識で行っています。
習慣は、考えることなく、ほぼ無意識のうちに行っていることです。
悪い習慣を変えるには、「ライミング」や「デフォルト」や「コミットメント」など、自動的に行動を促す心理をうまく使えば、考え方を変えるように教育するより、はるかにうまくいきます。
思考が変われば行動も変わると言われていますが、行動している自分の姿を通しても、思考が変わるのです。
教育で思考を変えるより、行動を変えるように促した方が、早く思考も変わります。
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